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第三十七回 「またね!」

40歳手前あたりから
年に1回か2回、舞台に立っている。
ここ何年かは年に1回だけになっている。
たったそれだけなので、
役者です!と胸を張って言えずにいる。
「芝居をちょっとやっています」と
うつむき加減に小声で言うのがやっとだ。

今年も、その舞台の詳細が決まった。

演劇ユニットK-CAT 第10回公演
「上川家の女たち」
原作 ガルシーア・ロルカ「ベルナルダ・アルバの家」
翻案 池田むかう
演出 西川信廣
音楽 上田亨

2017年12月22日(金)20時~
        23日(土)14時~・19時~
        24日(日)11時~・15時~ (開場は開演の30分前)
金沢市民芸術村 PIT2 ドラマ工房
前売り 一般  2000円(当日2500円)
   高校生以下1500円(当日2000円)

昭和5年の、北陸のとある山間部の村の旧家上川家が舞台。
20代から70代の14人の女たちだけで演じる群像劇。
私は、5人の娘をもつ厳格で高圧的な上川家の未亡人。

ちょっと今までにない役柄なので、
現在台本を前に、台詞も多くて難儀している。

正直、苦しい。
では、なぜそんな苦しい思いをしてまで
性懲りもなく芝居を続けているのだろうかと
芝居仲間と話し合うことがよくある。

芝居を始めたばかりの10代の頃は、
プロを目指していた。
なんとか、芝居だけで
食べていけるようになることを夢見ていた。
諸般の事情で、東京に行きそびれてしまった私は、
それでも、地元発信で有名になれないかと画策する仲間達と
地元に稽古場兼常設小屋をもち
仕事をしながらも、月に一度の公演をこなしていた。

しかし、才能と能力の限界に気がつき、
結婚出産を機に、芝居で食べていく夢は遠ざかっていった。
10年以上、舞台から離れていた私は、
子どもの手が離れたのをきっかけに舞台に戻った。

とはいえ、その時には
有名になろうとか、
芝居だけで食べていけるようになろうとは
まったく思わなくなっていた。
芝居だけでは生活できないが、夫とふたり、
その周辺(CM出演や、ナレーター、演劇の講師など)で
暮らしていくことができるようになっていた。

舞台に立つということは、
自分にとって趣味の分野と割り切った。
もちろん、趣味だからといって手は抜かない。
チケットを買って観に来てくださるお客さまに
満足していただけるものを作るのは、
プロもアマも変わらないと思っている。

それにしても、
時間と労力とお金をかけて、
誰かに頼まれたわけでもなく、
私が舞台に立たなくても、困る人などいないとういのに
なぜ、芝居を続けようと思うのだろうか。

私の場合、
内側からわき出てくるような、
どうしても表現したいものがあるとか、
思想的な何かを、演劇を通じて訴えたいというような
強い意思があるわけではない。

信頼する演出家、スタッフ、役者仲間と
作品作りをする時間が心地良いのと、
本番の舞台で、ほんの一瞬でも
お客さまの心が動き、自分の芝居と、
すっと寄り添う瞬間を味わいたい
ただそれだけだ。

年齢的に、あと何回舞台に立てるのだろうか
ということも考える。
もしかして、これが最後かもしれない…
そう思って1回1回を大切にしている。

そんな舞台「上川家の女たち」のチケット発売は
10月1日より。
取り扱いは、
金沢市民芸術村事務所、またはK-CATホームページ。
もしくは、私に直接メッセージをいただければ手配いたします。

そして。
もうひとつお知らせです。
3年間にわたって連載しておりました、
この「皐月のコイの吹き流し」ですが
石川シアターマップのいったん休止にともない、
今回をもちまして、皆さまとしばしのお別れです。

長きにわたってのご愛読、ありがとうございました!
また、お会いできる日を
楽しみにしております。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

バックナンバー

10月1日 第三十七回 「またね!」
9月1日 第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」
8月1日 第三十五回 「命の終わらせ方」
7月1日 第三十四回 「お酒と私」
6月1日 第三十三回 「千里の道も一歩から」
5月1日 第三十二回 「女ごころの最後の悪あがき」
4月1日 第三十一回 「ドラマオーディション体験記」
3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
2月1日 第二十九回 「そのドアを開けてはいけない」
1月1日 第二十八回 「正月支度」
12月3日 第二十七回 「劇処 シャッフルステージ」
11月1日 第二十六回 「乗っかりそびれたハロウィン」
10月4日 第二十五回 「女って、生きているかぎり闘い続けるものなのよ」
9月3日 第二十四回 手塩にかけたナレーターたちのデビュー
8月1日 第二十三回 大人、大人、言いすぎじゃないの?
7月5日 第二十二回 靴が見つからない
6月8日 第二十一回 地獄の抑止力
5月3日 第二十回 最後まで笑顔
4月3日 第十九回 桜を見ずに逝った人
3月1日 第十八回 うるう年の薔薇
2月1日 第十七回 奥手な女子の初バレンタイン
1月2日 第十六回 愛しの近江町市場
12月1日 第十五回 どのツラさげて
11月1日 第十四回 結婚式の思い出
10月1日 第十三回 輝きの秘密は、言わぬが華
9月1日 第十二回 魔女と仙女と魔法使い
8月1日 第十一回 去っていった古女房
7月1日 第十回 恥ずかしかった誕生日の夜
6月1日 第九回 撮影裏ばなし
5月1日 第八回 歌うシンデレラと、歌えない仙女
4月1日 第七回 台湾、満喫、満足、満腹の旅
3月1日 第六回 熟年サラリーマンのプラトニックラブ
2月1日 第五回 報われないけど、やり甲斐のある仕事
1月1日 第四回 泣きたいときは泣いてもいいのか
12月2日 第三回 持てあました、夢見る権利
10月30日 第二回 煙草とトワレ
10月1日 第一回 ヒロインはいつもリカちゃん