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第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」

これを書いているのは、8月30日。
夏休みも、明日で終わり。

夏休みといえば宿題。
夏休み帳、絵日記、工作、一人一研究、
漢字ドリル、計算ドリル、読書感想文。

ぎりぎりになって半泣きでやったような
やっつけ仕事の工作や研究に混じって、
明らかに、親の手が入っているのが見え見えの
超大作の工作や、研究なんかが提出されるのも、
新学期の風物詩である。

趣味で時々日本画を描いていた叔父が
私のヘタくそな絵を
見るに見かねて色を塗ってくれた
海の夕焼けの絵が
明らかに他の絵とクオリティーが違いすぎて
「これは、上手すぎてバレる~~!」と
泣きながら抗議した当時の自分を叱ってやりたい。

もう、時効なので告白すると、
父が夏休み明けの発明工夫展に出す作品を一度だけ、
手伝って…というか、作ってくれたことがあった。
うまく作り過ぎると
子どもらしさがないということで、
わざとちょっと雑に仕上げるという小細工を利かしていた。
そして、それが入選してしまい、
私はとてもバツが悪かった。

一人一研究は、理科が苦手だったので
長文の作文や童話を書いたりして
お茶を濁していた。
時間をかけて、綿密な理科の実験や、
植物の観察記録をした友人たちが
表彰されるのを
「そんなめんどくさいこと、やれるかよ~」と
そっぽを向いていた。

中学高校に進むと、
さすがに家族は誰も手伝えなくなり、
自力で仕上げねばならなくなった。
悪知恵の働く私は、
自分の得意分野と友人の得意分野を生かして
宿題の物々交換を思いついた。

当時読書感想文コンクールの常連で、
書くことはまったく苦にならなかった私は、

数学は得意だが、感想文は苦手な友人から
数学の宿題の答えを写させてもらう代わりに、
読書感想文を書いた。
手先の器用な友人に、手芸品を作ってもらう代わりに
読書感想文を書いた。

同じような文体にならないように、
その人らしい文章にし、
完璧だと怪しまれるので、わざと誤字脱字をいれてみたり、
常体と敬体が混じった文章にするという
小細工も忘れなかった。
もしかして、日本で最年少ゴーストライターだったかもしれない(笑)
出だしを会話から始めたり、
四字熟語から始めたりして、インパクトを強くしてみたり、
主人公ではなく、そのライバルや、
悪役の視点で書いてみたり、
主人公への手紙というかたちで、感想文にしてみたりと
先生や大人が感心するような書き方が
なんとなく分かっていたような気がする。
……われながら、なんてイヤミな子どもだったんだろうか(笑)

中高時代、夏休みの読書感想文だけではなく、
交換日記や、ラブレターのゴーストライターもしていた。
好きな先輩や同級生と
やっと交換日記までこぎつけたけれど、
何を書いていいかわからない…
ネタぎれ…
相手からの問いかけになんて応えれば良いか分からない…
という友人たちにアドバイスをした。
私が書いたラブレターで付き合いが始まった友人には
とても感謝された。

そんなわけで、そのゴーストライターの腕を生かして
夏休みの苦手分野の宿題をこなした私は、
得意なものはより得意になったけれど、
苦手なものは、まったく上達しないまま
今に至ってしまった。

悪知恵は、浅知恵に過ぎないということか。

最近では、手伝えない親が、
ネットで工作や感想文を購入したりすることもあるという。
しみじみと時代を感じてしまう。

私自身がしてきたことを思うと
今の子どもたちに、
全部自分でやれとは言えないが、
せめて親が頑張って手伝ってくれている姿を見て
申し訳ないとか、
そっか、こうやってやるのか…ぐらいは
学んで欲しいと思う。

親が、宿題をネットで
ポチッと注文している背中を見て育つ子どもは
いったいどんな親になるのだろうかと
ふと心配になるのであった。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

バックナンバー

10月1日 第三十七回 「またね!」
9月1日 第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」
8月1日 第三十五回 「命の終わらせ方」
7月1日 第三十四回 「お酒と私」
6月1日 第三十三回 「千里の道も一歩から」
5月1日 第三十二回 「女ごころの最後の悪あがき」
4月1日 第三十一回 「ドラマオーディション体験記」
3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
2月1日 第二十九回 「そのドアを開けてはいけない」
1月1日 第二十八回 「正月支度」
12月3日 第二十七回 「劇処 シャッフルステージ」
11月1日 第二十六回 「乗っかりそびれたハロウィン」
10月4日 第二十五回 「女って、生きているかぎり闘い続けるものなのよ」
9月3日 第二十四回 手塩にかけたナレーターたちのデビュー
8月1日 第二十三回 大人、大人、言いすぎじゃないの?
7月5日 第二十二回 靴が見つからない
6月8日 第二十一回 地獄の抑止力
5月3日 第二十回 最後まで笑顔
4月3日 第十九回 桜を見ずに逝った人
3月1日 第十八回 うるう年の薔薇
2月1日 第十七回 奥手な女子の初バレンタイン
1月2日 第十六回 愛しの近江町市場
12月1日 第十五回 どのツラさげて
11月1日 第十四回 結婚式の思い出
10月1日 第十三回 輝きの秘密は、言わぬが華
9月1日 第十二回 魔女と仙女と魔法使い
8月1日 第十一回 去っていった古女房
7月1日 第十回 恥ずかしかった誕生日の夜
6月1日 第九回 撮影裏ばなし
5月1日 第八回 歌うシンデレラと、歌えない仙女
4月1日 第七回 台湾、満喫、満足、満腹の旅
3月1日 第六回 熟年サラリーマンのプラトニックラブ
2月1日 第五回 報われないけど、やり甲斐のある仕事
1月1日 第四回 泣きたいときは泣いてもいいのか
12月2日 第三回 持てあました、夢見る権利
10月30日 第二回 煙草とトワレ
10月1日 第一回 ヒロインはいつもリカちゃん