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第三十四回 「お酒と私」

「○○と私」なんて
青年の主張とか、中高生の作文のタイトルみたいで
センスないなぁと思いつつ、
なんだかいろいろあってあまり頭がまわらないので
妥協してしまった。

お酒を断っている。
もうかれこれ、1ヶ月ちょっとになる。
人生で一番長い禁酒は、
妊娠期間~断乳期間までの18ヶ月間。
それに比べたら、
1ヶ月なんて序の口のように思うだのだが、
若い頃より、ずっとずっと
無類の酒好きになってしまっているので
よくぞ続いていると感心している。

お酒を断っている理由はいくつかある。
休みの日は、明るいうちから
缶ビールをぷしゅっとあけることもあったし、
平日は平日で、夕方あたりからもう、
今夜は何を肴に、何を呑もうかと
そわそわすることもあった。
これって、飲む量関係なく、
アルコール依存症なんじゃないかと不安になった。

もちろん、ただ酔いたいだけではない。
お酒の味を楽しみたいという部分は大きい。
しかし、酔っぱらって多幸感を味わいたい!
酔ってひとときでも
思うようにならない現実から逃れたい!
果てしない寂しさを紛らわせたい!
というちょっと心配な
お酒の飲み方になりつつもあった。

先日の血液検査で、
血糖値だの、コレステロール値だの、
γなんとかだのの数値が上がってきていることや、
不眠や、精神的なことで
処方してもらっている薬の種類が替わったこともあり、
とりあえず禁酒することにしてみた。

……意外と平気だった。
現実から逃れたいときは、
お笑い番組を見てがははと笑っている。
残念ながら、
お酒の多幸感の代わりは見つからない。

呑まないことのメリットは、
単純に酒代が浮くということ。
健康にいいのかどうかは、
もう少し続けないと数字に表れないだろう。
晩酌をしなくなったので、
食事は一汁一菜のシンプルなものになった。
食費も随分少なくてすむようになっている。
体重も一ヶ月で2キロも減った。

しかし、これはデメリットにもなっている。
私の料理へのモチベーションは
人に作って振る舞うことと、
お酒を美味しく呑めるものを作ることだったようだ。

誰も来ない日のおかずは、
ただ切り身魚を焼くだけとか
肉を炒めるだけの手抜きになってきた。

食器も同じようなものですましている。
晩酌をするとなると、
目でも楽しみたいので、
小皿や小鉢に凝ってみたりするのだが、
今はひたすら洗い物が簡単ですむことばかり考えている。

料理のバリエーションが減り、
食べるものも偏ってきている。
台所に立つのもなんだか、かったるい。
どんどん無精になってきている気がする。

うむむむ。これってどうなんだろうか。

酒は百薬の長ともいう。
これまでの一晩の私の酒量は、
日本酒なら2合。
ビールなら350~500。
ハイボールなら3杯。
これくらいなら、私にとっては
いい潤滑油だったのではないだろうかという気もしてきた。

一番いいのは、
晩酌しなくても、小まめに料理を作って
バランスのいい食生活をすることなのだが
今のところお酒抜きで、
料理を作る気になれないのだ。

まぁ、お酒と少し距離を置いてみるからこそ
分かることもあるかもしれない。
せめて、半年くらいは禁酒を続けてみないことには。

そのうえで、本当に自分にアルコールが必要なのか
いらないのかを決めてみたいと思う。

お酒の力なんか借りなくても、
多幸感なんて味わえるし、
現実から逃れようなどと考えず
真っ向から向き合い、
寂しさは紛らわすのではなく、
そのまま抱えて生きていけるようになったら
たま~に、わりきって
楽しみで飲む…みたいな
そんな付き合い方ができたらいいのに。

そんなわけで、私とお酒の関係は、
長い付き合いのくされ縁の
年下ダメ男みたいなものかもしれない。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

バックナンバー

7月1日 第三十四回 「お酒と私」
6月1日 第三十三回 「千里の道も一歩から」
5月1日 第三十二回 「女ごころの最後の悪あがき」
4月1日 第三十一回 「ドラマオーディション体験記」
3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
2月1日 第二十九回 「そのドアを開けてはいけない」
1月1日 第二十八回 「正月支度」
12月3日 第二十七回 「劇処 シャッフルステージ」
11月1日 第二十六回 「乗っかりそびれたハロウィン」
10月4日 第二十五回 「女って、生きているかぎり闘い続けるものなのよ」
9月3日 第二十四回 手塩にかけたナレーターたちのデビュー
8月1日 第二十三回 大人、大人、言いすぎじゃないの?
7月5日 第二十二回 靴が見つからない
6月8日 第二十一回 地獄の抑止力
5月3日 第二十回 最後まで笑顔
4月3日 第十九回 桜を見ずに逝った人
3月1日 第十八回 うるう年の薔薇
2月1日 第十七回 奥手な女子の初バレンタイン
1月2日 第十六回 愛しの近江町市場
12月1日 第十五回 どのツラさげて
11月1日 第十四回 結婚式の思い出
10月1日 第十三回 輝きの秘密は、言わぬが華
9月1日 第十二回 魔女と仙女と魔法使い
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5月1日 第八回 歌うシンデレラと、歌えない仙女
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10月1日 第一回 ヒロインはいつもリカちゃん