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第二十四回 手塩にかけたナレーターたちのデビュー

今月、私の事務所「プロダクション・アーニング」から
勢登香理、宗村春菜の2名が
ナレーターとしてデビューする。
ふたりとも、舞台経験豊富な役者ではあるが、
宗村はプロのナレーター業には初挑戦。
勢登は、6年のブランクを経ての再デビュー。

先日、関係各方面にお渡しするための、
サンプル音源の収録をしてきた。
名刺も刷り上がり、9月からご挨拶まわりの予定。

この秋のデビューを目指して、
春からレッスンを積んだふたり。
即戦力になれるよう、時間をかけて指導してきた。
この仕事をして35年ほどになる。
専門学校で正式に習ったわけでも、
誰かに個人指導してもらったわけでもなく、
ひとつひとつの仕事の現場で
自分自身で会得していったノウハウや技術。
自分のことは、現場でたたき上げられてきた
職人のようなナレーターだと思っている。

鍛えてくださったのは、
右も左も分からないまま、この世界に入った私に
仕事を依頼して辛抱強くつきあってくださった
製作スタジオの皆さんだ。

たくさんの方のご厚意の上で培ってきたものを
なんとか、事務所のメンバーたちに
引き継いでいってもらいたいと思っている。
幸い、うちのメンバーたちは
とても勉強熱心でまじめだ。
デビューしてからも、
定期的に通ってきてナレーション技術の研鑽に励んでいる。

ただ、長くやってきているからといって、
指導するのがうまいというわけではない。
役者が皆、演技指導ができるのかとか、
秀才が皆、教師になれるのかとか、
野球選手が皆、コーチをやれるのかとか、
絵が描ける人が皆、先生になれるのか…
ということを考えてもらうと
分かりやすいかもしれない。

自分でやるのはできても、
それを、相手に合った教え方で伝えるのは
べつの技術や能力がいる。
もともと指導者タイプではなかった私は、
迷いながら悩みながら、
おこがましくも教えるということと
向き合ってきた。
果たして私の言いたいことは
正しく伝わっているのだろうか?
このやり方で良いのだろうか?
そもそも、治そうとしているこの部分は
クセではなく、個性なんじゃないのか?
だとしたら、それをつぶしているのではないのか?
マンツーマンでの
1時間のレッスンが終わったあとは、
いつも一人反省会をしている。

これまでなんとなくやってきたことを
改めて振り返り、
系統だてて考えるきっかけにもなった。
自分のやり方を再確認し、
チェックすることにもなった。
相手が、どこでつまずいているのか、
何が実感としてわからないのかを探っていく作業は、
自分がデビューしたてのころを
追体験する作業でもあった。

ナレーターを育てているつもりが、

じつは、自分が育ててもらっている。
これって、子育てと似ているのだと気がついた。

自分の子育てが、正しいのか間違っているのかは
自分では分からない。
ただ言えるのは、子どもを
ちゃんと育てようと思わない親はいない。
ちゃんと育ったかどうかを判断するのは
周囲の皆さまだ。

手塩にかけて育てている
ナレーターたちが、
皆さまに愛され、少しでもこの業界のお役にたち、
一人前になっていってくれることが
今の私のいちばんの願いである。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

バックナンバー

10月1日 第三十七回 「またね!」
9月1日 第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」
8月1日 第三十五回 「命の終わらせ方」
7月1日 第三十四回 「お酒と私」
6月1日 第三十三回 「千里の道も一歩から」
5月1日 第三十二回 「女ごころの最後の悪あがき」
4月1日 第三十一回 「ドラマオーディション体験記」
3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
2月1日 第二十九回 「そのドアを開けてはいけない」
1月1日 第二十八回 「正月支度」
12月3日 第二十七回 「劇処 シャッフルステージ」
11月1日 第二十六回 「乗っかりそびれたハロウィン」
10月4日 第二十五回 「女って、生きているかぎり闘い続けるものなのよ」
9月3日 第二十四回 手塩にかけたナレーターたちのデビュー
8月1日 第二十三回 大人、大人、言いすぎじゃないの?
7月5日 第二十二回 靴が見つからない
6月8日 第二十一回 地獄の抑止力
5月3日 第二十回 最後まで笑顔
4月3日 第十九回 桜を見ずに逝った人
3月1日 第十八回 うるう年の薔薇
2月1日 第十七回 奥手な女子の初バレンタイン
1月2日 第十六回 愛しの近江町市場
12月1日 第十五回 どのツラさげて
11月1日 第十四回 結婚式の思い出
10月1日 第十三回 輝きの秘密は、言わぬが華
9月1日 第十二回 魔女と仙女と魔法使い
8月1日 第十一回 去っていった古女房
7月1日 第十回 恥ずかしかった誕生日の夜
6月1日 第九回 撮影裏ばなし
5月1日 第八回 歌うシンデレラと、歌えない仙女
4月1日 第七回 台湾、満喫、満足、満腹の旅
3月1日 第六回 熟年サラリーマンのプラトニックラブ
2月1日 第五回 報われないけど、やり甲斐のある仕事
1月1日 第四回 泣きたいときは泣いてもいいのか
12月2日 第三回 持てあました、夢見る権利
10月30日 第二回 煙草とトワレ
10月1日 第一回 ヒロインはいつもリカちゃん