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第二十三回 大人、大人、言いすぎじゃないの?

いったい何年前からだろうか?
「おとなの○○」という商品が世間にあふれている。
私の記憶では、はじめは
永谷園の「おとなのふりかけ」あたりが
はしりだったように思う。
当時は、大人だけが
こっそり楽しむ特別なものという印象で、
そのネーミングセンスになるほどと思った。

しかし、今では食品だけでなく、
なんでもかんでもに「おとなの」がついている。
おとなの旅、おとなの保険、おとなの…etc。
おとな大安売り。
「おとな」のありがたみゼロ。

だいたいおとな女子ってのも、
さっぱりよくわからない。
女子って、おんな「子ども」のことなのに
そこにまた、
おとなってつけて、
いったいどっちなんじゃいっ。
おとなかわいいてのも、微妙である。
かわいいというのは、
本来小さきもの、幼きもの、小動物につける形容詞。
大人がかわいくて、どうするんじゃいっ。

そんなに、いちいち「おとな」を強調したいのか。

私の子どもの頃、周囲の大人は、
こんなふうに自分で
おとな、おとな言ってはいなかった。
だいたい、本当の大人は
自分で自分のことを大人なんて
わざわざ言わない、名乗らない。

昔の大人は、
大人であることを強調していなくても、
今の私たち大人世代より、
ずっとずっと大人だった。
落ち着いていて、思慮分別があり、
穏やかで、責任感があり、
家族や、周囲の子どもたちに対して
ぴしりと威厳をもって接していた。
向田邦子の小説に出てくるような
昭和の父、母たちは、
あたりまえのように周囲にいた。
友だち親子なんてことばは
昔はなかった。
学校の先生たちも尊敬できる方がとても多かった。

そして、大人と子どもの境界線は
はっきりとあった。

自分が子どもだったので、
そう見えていただけなのかもしれない。
子どもの知らないところで、
こっそりひっそり、
幼稚な行動や言動をしていたのかもしれない。
しかし、子どもの前で
そういう部分を出さないようにしようという
気構えはあったように思う。

今、私たち大人はそれが欠けている。
なんだかふわっふわしている人が多い。
流行りモノに流され、
人の意見に流され、
子どもに嫌われまいとご機嫌をとり、
顔色をうかがっている。
ぴしりと周囲の子どもを叱れる大人が少なくなった。

私を含めて、それを自覚している大人は、
きっと不安で仕方ないのだ。
自分は大人なのだろうか?と。
そもそも、大人ってなんだろう?
成人式をすぎたら大人なのか?
就職したら大人なのか?
家庭をもったら?
子どもが産まれたら?

そんな条件的なことではなく、
内面的なことの自信がないので
こうして、「おとなの○○」に飛びついて、
自分が大人であることを
自分で自分に言い聞かせて
安心しているように思う。

大人の条件ってなんだろう?

だいたい、こんなスナック菓子に飛びついて
買い食いしている時点で
大人ではない気がする。

じゃあ、大人はおやつに何を食べればいいのか?
わらび餅ならOKなのか?
羊羹ならいいのか?
とりあえず、この
「大人のきのこの山」は美味しかった。

ああ、本物の大人になりたいものだ。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

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9月1日 第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」
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3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
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