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第十三回 輝きの秘密は、言わぬが華

おかげさまで、音楽劇「歌うシンデレラ」
好評のうちに、無事に幕をおろすことができた。
観客数も久しぶりの500人超え。
大入り袋も、いつもの5円ではなく15円。
「充分ご縁がありますように」
とのことだそうだ。

年に1本しか舞台に立つことのない私は、
公演が終わると腑抜けになる。
そんな私に、
芝居を観に来てくれた、久々に会う友人から
感想メールをもらった。
舞台そのものの感想の最後に
「で、あんた今、もしかして恋しとるん?」
とあった。

「え?なんで?」
と聞き返したら
「カーテンコールの時のあんたの顔、
 つるっつるのぴっかぴかのお肌だったし、
 瞳もきらっきらっだったから。
 あれは、恋する乙女の顔だった」
とのことだった。

「さすがに、乙女はないだろう。
 そこは恋するおかめで(笑)」
と返しておいたが、
実際のところのタネあかしはしなかった。

カーテンコールで私の顔が
つるっつるのぴっかぴかだったのは、
大量の汗のせいだ。
芝居の後半は怒濤の歌唱シーン。
腹から声を出して歌うのは、かなりエネルギーを使う。
そして歌うことに慣れていないので
冷や汗あぶら汗、へんな汗をだくだくとかく。
通気性のない衣裳のサウナ効果、
そこへ、ばしっとあたる明るい照明。
舞台に立っている私にとって
汗は、つたうとかぬぐうとか、
そんな生やさしいものではない。
わき出る、流れ落ちる、まみれるものだ。
マスカラ、アイラインは当然ウォータープルーフ。

本物のプロの女優は、
顔に汗をかかないという。
顔汗問題に関して言うと、
私はずぶの素人ということになる。

カーテンコールの舞台で
拭くに拭けない顔面をおおう大量の汗。
そこに、あかりがあたり、
着ていた衣裳のシルバーのマントが
思わぬレフ板効果を発揮して、
遠目からみたらお肌が輝いて見えただけだ。

瞳がきらきらしていたのも、
彼女が見た回は、カーテンコールの歌の際に
思いがけずお客様からの手拍子をいただき、
不覚にも泣きそうになった。
そのこらえた涙が、瞳をきらきらに見せたのだと思う。
いや、もしかしたら大量の汗が目に入って、
しみて痛くて涙目になっていたのかもしれない。

そして、その友人が、
現在の私のタンスの引き出しを見たら
「もしかして、恋しとる?」
などとは口が裂けても聞かないだろう。

いつもなら、舞台やCMで、
自分ではないものになるときは、
衣裳や髪型はもちろん、
下着もなるべく、それにあわせたものを着用し、
気分を盛り上げるようにはしているのだが、
今回の衣裳はちょっと特殊で
下着の柄やかたちが見えることに気がついた。
こりゃいかんと、
透けて見えても気にならない
薄手のベージュのおばちゃんパンツを大量購入。

新しく何かを買ったら、その分だけ
古いものを捨てるというルールに従い、
現在の私のひきだしは、
味もそっけも色気もない、
ベージュのおばちゃんパンツがひしめいている。
恋する女のひきだしとは、とうてい思えない。

ありがたくも面映ゆいことではあるが、
こんな私を恋する乙女と思ってくれたのならば、
ここに書いたことは、
黙っていたほうがいいだろう。

ベージュのおばちゃんパンツをはいた
汗っかきの女の恋の相手は
今頃、どこで何をしているのだろう。

少し想像して、含み笑い。

次の舞台では、汗の力を借りずに
本当にきらきらと美しく輝いていたいものである。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

バックナンバー

10月1日 第三十七回 「またね!」
9月1日 第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」
8月1日 第三十五回 「命の終わらせ方」
7月1日 第三十四回 「お酒と私」
6月1日 第三十三回 「千里の道も一歩から」
5月1日 第三十二回 「女ごころの最後の悪あがき」
4月1日 第三十一回 「ドラマオーディション体験記」
3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
2月1日 第二十九回 「そのドアを開けてはいけない」
1月1日 第二十八回 「正月支度」
12月3日 第二十七回 「劇処 シャッフルステージ」
11月1日 第二十六回 「乗っかりそびれたハロウィン」
10月4日 第二十五回 「女って、生きているかぎり闘い続けるものなのよ」
9月3日 第二十四回 手塩にかけたナレーターたちのデビュー
8月1日 第二十三回 大人、大人、言いすぎじゃないの?
7月5日 第二十二回 靴が見つからない
6月8日 第二十一回 地獄の抑止力
5月3日 第二十回 最後まで笑顔
4月3日 第十九回 桜を見ずに逝った人
3月1日 第十八回 うるう年の薔薇
2月1日 第十七回 奥手な女子の初バレンタイン
1月2日 第十六回 愛しの近江町市場
12月1日 第十五回 どのツラさげて
11月1日 第十四回 結婚式の思い出
10月1日 第十三回 輝きの秘密は、言わぬが華
9月1日 第十二回 魔女と仙女と魔法使い
8月1日 第十一回 去っていった古女房
7月1日 第十回 恥ずかしかった誕生日の夜
6月1日 第九回 撮影裏ばなし
5月1日 第八回 歌うシンデレラと、歌えない仙女
4月1日 第七回 台湾、満喫、満足、満腹の旅
3月1日 第六回 熟年サラリーマンのプラトニックラブ
2月1日 第五回 報われないけど、やり甲斐のある仕事
1月1日 第四回 泣きたいときは泣いてもいいのか
12月2日 第三回 持てあました、夢見る権利
10月30日 第二回 煙草とトワレ
10月1日 第一回 ヒロインはいつもリカちゃん