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第十回 恥ずかしかった誕生日の夜

6月は誕生月だった。
最近では、年を重ねることを祝うというより、
なんとか無事に誕生日を迎えることができて良かったという
祝い方をしている。

さすがにこの年齢まで生きていると、
家族や友人知人たちに
サプライズで祝ってもらったことも何度かある。
私のために、サプライズを企画してくれたという、
その気持ちがありがたく嬉しい。

ただ、まれに、計画がゆるゆるのだるだるで、
打ち合わせがうまくいっていないのか、
ひそひそこそこそしている様子が
こちらに丸わかりだったりして、
「あ、これはサプライズをするつもりなのね?」と
気がついてしまうことがある。
せっかくなのだから、
期待された反応をしたいと思うのだが、
気がついていたことを悟られないように
「えっ!」と驚いて見せなければ申し訳ないと思うと、
そのプレッシャーはハンパないものだ。

役者の端くれなのだから、それくらいお手の物だろうと
思われるかもしれないが、
誕生日のサプライズについては例外である。
やたらぎこちない驚き方をしてしまったり、
必要以上にオーバーアクションをして、
大根役者ぶりを露呈してしまったこともある。

なんてことを書くと、
「なんと贅沢な!祝ってもらえるだけで感謝しろ!」と
お叱りをうけそうだが、
山ほど感謝してはいるのだが、
気付いていたサプライズへの正しい反応が苦手なのだ。

さて。
今年の誕生日。
詳しくは書けないのだが、
今年は、とある人に
サプライズで祝ってもらえるのではないかという
希望的観測があった。
根拠はないのだが、その人の性格や、
これまでの経緯を考えると、
突然連絡してくるのではないかと思っていた。
そんなわけで、
あえて予定をいれずに空けておいた。
その際は、そのサプライズに対して
上手に反応をしようと心の準備もしておいた。

もちろん、親しい友人たちからお誘いがあれば、
そちらを優先しようと思っていたのだが、
なぜか今年は、親しい友人たちからも連絡がなかった。

それでも、突然の呼び出しや訪問にも対応できるよう、
20時過ぎくらいまでは化粧も落とさず、
食事もとらずに待機していた。
…けっきょく、誕生日当日は
誰からも連絡がなかった。

は、はずかしい。
そんな自分が、はずかしい。
サプライズが苦手だなんて言っているから
バチが当たったのかもしれない。

がっくり肩を落として着替え、
メイクをおとし、
食事を作るのも面倒なので、
ポテトチップスと炭酸水で夕食をすました。
これまでで一番、寂しい誕生日の夜となった。

その翌日以降、
親しい友人が
プレゼントやケーキをもって訪ねてきたり、
食事の誘いをしてきてくれた。
「さすがに当日は、
誰か大事な人と過ごしていると思って遠慮していた」
というのが、友人たちの言い分であった。

いやいやいや、あんたが大事な人だからね。
遠慮とか、しなくていいからね。

誘ってくれた友人ひとりひとりに、
涙目で伝えたのは言うまでもない。

私が希望的観測をしていた「とある人」からは、
相変わらずなんのお誘いもない。
完全に観測を誤っていたようだ。


人生なんて、そんなもんだ。

来年の誕生日は、自分から何か楽しい企画をして、
寂しく過ごさなくても良いようにしよう。
そして、観測はちゃんとデータをにらんで
正確にやらないといけないぞ
ということが身に染みた今年の誕生日。

だてに年だけ重ねている場合ではない。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

バックナンバー

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9月1日 第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」
8月1日 第三十五回 「命の終わらせ方」
7月1日 第三十四回 「お酒と私」
6月1日 第三十三回 「千里の道も一歩から」
5月1日 第三十二回 「女ごころの最後の悪あがき」
4月1日 第三十一回 「ドラマオーディション体験記」
3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
2月1日 第二十九回 「そのドアを開けてはいけない」
1月1日 第二十八回 「正月支度」
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11月1日 第二十六回 「乗っかりそびれたハロウィン」
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3月1日 第十八回 うるう年の薔薇
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1月2日 第十六回 愛しの近江町市場
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7月1日 第十回 恥ずかしかった誕生日の夜
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