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第七回 台湾、満喫、満足、満腹の旅

台湾3泊4日の旅に行ってきた。
恥ずかしながら、人生初海外旅行。

私の世代だと、新婚旅行で
ハワイやグァムやバリあたりに行っている人も多いのだが、
なんせ当時夫と私は
26歳と21歳の貧乏演劇人カップル。
当然貯金はゼロ。
しかも、何を思ったか夫は結婚が決まると同時に、
演劇活動に理解がないという理由で、
それまで勤めていた会社を辞めるという暴挙に出た。

双方の親のたっての願いで、
披露宴は人並みにしようということになり、
そこは親の脛をかじらせてもらった。
が、新婚旅行で海外へ行きたいとは
口がさけても言えるはずもない。
ということで、新婚旅行は近場の神戸。
それも4泊のうち2泊は
夫の友人夫婦の家に泊めてもらうという
なかなかの貧乏旅行。

いつか、ふたりで海外旅行へ出かけよう!
を合い言葉に頑張ってきたが
なかなかタイミングが合わないまま
夫は52歳で亡くなった。
亡くなる数年前、台湾旅行へ行こうと
パスポートまでとったのだが、
直前で母がケガをしてしまい断念した。

台湾、中国、日本の合作ドラマに出演した夫は、
台湾の女性スタッフたちから
「ナイスガイ!ナイスガイ!」と大モテしていたらしい。
台湾に来たら、案内してあげると
片言の日本語と、たどたどしい英語と、身振り手振りで
盛り上がったという。
彼にとって台湾は、憧れの地であったようだ。

その台湾に、
台湾在住2年目の娘さんをもつ友人が誘ってくれた。
友人はこれで台湾は3度目。
しかも、現地では
中国語、台湾語、英語、ペルシャ語に堪能な娘さんが、
全日ガイドとして付き添ってくれるという。

初海外旅行の私にとって、願ったり叶ったりである。
しかも、その娘さんは、
持ち物から、入境カードの書き方見本に加え、
3泊4日の現地での観光スケジュールを
写真と地図入りで、移動の地下鉄の料金まで記入し、
足裏マッサージや
台湾シャンプーで行く予定の店の
クーポンまで添えた完全無欠、
非の打ち所がない
旅のしおりを作って送ってくれたのだった。

現地では、比較的日本語が通じる店は多いものの
詳しい質問や、交渉などは
私たちだけでは難しいところを
彼女がいるおかげで、
まったく不安も、不自由も感じることなく
スムーズにできた。

しかも、旅先ではガイドをしながらカメラマンも兼務。
自分たちだけでは撮りきれなかったであろう、
ベストショットを撮りまくってくれた。
そして、それを帰国した当日に早々と
面白キャプションをつけたストーリー仕立てにして、
フェイスブックにアップするという
仕事の完璧っぷりはもう脱帽ものであった。

少しぐらい苦労したり不自由したりするほうが
その国のことをよく知ることができるのかもしれない。
しかし、私のようなびびりな性格な者にとっては、
初めての海外は、これくらいがいい。

台湾では、笑っているか食べているか
驚いているかのどれかだった。

驚いたことは、たくさんあった。
台湾の古い街並み、雑多な市場の喧騒、
ド派手な寺院、怪しげな占い横丁。
店構えも店内も大丈夫か?と心配になるほど汚いし、
安っぽい皿にビニール袋をかぶせ、
そこに乱雑に料理を乗せて出てくるというのに、
料理の味はみな絶品。
ふわっふわでフルーツてんこ盛りのかき氷。
トイレのあとのペーパーは水に流さず
備え付けのゴミ箱に捨てるという驚きの習慣。
外で飲酒する習慣がないので、
街には酔っぱらいがまったくいない。
ホームレスたちも酒は呑んでいないこと。

まだまだあるが、それはまたいつか。

楽しすぎて、帰国してから抜け殻状態である。
抜け殻と言ったら、
「お腹はぱんぱんでしょ?」と指摘した人がいた。
はい。そのとおり。

満喫、満足、満腹の旅、台湾。
楽しんだのは、
きっと夫の分と二人分だったのかもしれない。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

バックナンバー

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9月1日 第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」
8月1日 第三十五回 「命の終わらせ方」
7月1日 第三十四回 「お酒と私」
6月1日 第三十三回 「千里の道も一歩から」
5月1日 第三十二回 「女ごころの最後の悪あがき」
4月1日 第三十一回 「ドラマオーディション体験記」
3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
2月1日 第二十九回 「そのドアを開けてはいけない」
1月1日 第二十八回 「正月支度」
12月3日 第二十七回 「劇処 シャッフルステージ」
11月1日 第二十六回 「乗っかりそびれたハロウィン」
10月4日 第二十五回 「女って、生きているかぎり闘い続けるものなのよ」
9月3日 第二十四回 手塩にかけたナレーターたちのデビュー
8月1日 第二十三回 大人、大人、言いすぎじゃないの?
7月5日 第二十二回 靴が見つからない
6月8日 第二十一回 地獄の抑止力
5月3日 第二十回 最後まで笑顔
4月3日 第十九回 桜を見ずに逝った人
3月1日 第十八回 うるう年の薔薇
2月1日 第十七回 奥手な女子の初バレンタイン
1月2日 第十六回 愛しの近江町市場
12月1日 第十五回 どのツラさげて
11月1日 第十四回 結婚式の思い出
10月1日 第十三回 輝きの秘密は、言わぬが華
9月1日 第十二回 魔女と仙女と魔法使い
8月1日 第十一回 去っていった古女房
7月1日 第十回 恥ずかしかった誕生日の夜
6月1日 第九回 撮影裏ばなし
5月1日 第八回 歌うシンデレラと、歌えない仙女
4月1日 第七回 台湾、満喫、満足、満腹の旅
3月1日 第六回 熟年サラリーマンのプラトニックラブ
2月1日 第五回 報われないけど、やり甲斐のある仕事
1月1日 第四回 泣きたいときは泣いてもいいのか
12月2日 第三回 持てあました、夢見る権利
10月30日 第二回 煙草とトワレ
10月1日 第一回 ヒロインはいつもリカちゃん