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第四回 泣きたいときは泣いてもいいのか

年の瀬に、不覚にもテレビCMで泣かされた。
ディズニー映画「ベイマックス」のCMだ。
介護ロボットベイマックスが、最愛の兄を失った少年に
「泣きたいときは、泣いてもいいですよ。」
と言って後ろからハグをし、
頭をぽんぽんする、あのCM。

そういえば、ここ最近ちゃんと泣いていなかった。
2014年は、私にとって
泣きたくなることがいくつかあったが、
ひとりで泣くことに慣れていない私は、
思い切って泣けなかった。
涙を受け止めてくれて、
泣き止むまで見守ってくれる誰かがいないと
怖くて泣けない。
だから、つらい時は
涙を飲み込んでしまうことが多かった。
「泣いてもいいですよ。よしよし。」ということばは、
まるで良く効くおまじないのように胸にしみこんだ。

そこへもってきて、
大好物の「バックハグ」に「頭ぽんぽん」である。
この2つがセットになったら頭の中は、
盆と正月どころか、
そこにハロウィンとクリスマスまで一緒にやってきたような
お祭り騒ぎ状態になることだろう。

しかし、残念ながら
そんな理想の慰めかたをしてくれる人はいない。
そんなときには、妄想劇場。
プロデューサーも、演出家も
主演女優も、観客も……自分。

主演女優が言う。
「長年の付き合いの○○クンはどうだろう?」
プロデューサーが言う。
「ああ、あいつならたくましい腕でしっかりハグしそうだね」
しかし演出家が難色をしめす。
「奴は、若すぎて包容力が足りない」
主演女優も
「たしかにねぇ。それに『泣いてもいいんだよ』という決め台詞が
似合わないかもね」
演出家曰く
「勝手に台詞を『泣きたいときは、逆に笑えばいい。わははは。』
に変えそうだ」
プロデューサーは、
「う~ん、いちばんオファーしやすい奴だったんだけどなぁ」
と残念そうに○○クンの名前に大きく×をつけた。
妄想劇場の会議はここから爆走する。

そこでプロデューサーは提案する。
「包容力のある奴といえば、最近妄想劇場への出演はご無沙汰だった
 ××さんなんかどう?年齢的にも同世代だし。」
演出家は
「まぁ難を言えば、バックハグがさまにならない身長差かな。」
と、好きなことを言っている。
そこで主演女優が持ち前のワガママさを前面に出す。
「彼はさぁ、ナルシストだから、
 私を癒すようなバックハグと頭ぽんぽんではなく、
 自分がカッコ良く見えるようにしかしないと思う。
 主役の私をくっちゃうような相手役はどうなのさ!」
却下される××さん。
妄想劇場の企画会議は、暴走を始める。

そこで演出家がひらめいた。
「それらの全てをクリアする、新進気鋭の※※氏は!」
主演女優の目が輝く。
「いい、いい!彼ならあの台詞も、バックハグも頭ぽんぽんも
ばっちり似合うし、主役の私をちゃんとたててくれる!」
プロデューサーが、言いにくそうに言った。
「※※氏は、別の劇場と専属契約を結んでいる。
 オファーに応えてくれるかどうか…。
 例え出演したとしても、ロングランはムリだろ。」

妄想劇場の企画会議は、迷走してしまい、
結局、幕をあげることはできなかった。
妄想なのだから、誰でもいいような気もするのだが、
私の性格上、妄想劇場は現実へのプロムナードにしたい。

バックハグで頭ぽんぽんして
「泣きたいときは、泣いてもいいんだよ」の一連が
妄想の世界ですら実現しないという哀しさよ。

ああ、ほんとにもう泣きたい。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

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9月1日 第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」
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3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
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