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第三回 持てあました、夢見る権利

年末ドリームジャンボ宝くじを初めて買った。

私には宝くじを買う習慣がない。10枚買って3000円。
当たるか当たらないか分からないものに3000円使うくらいなら、美味しいものを食べに行くか、映画でも見に行った帰りにカフェに行くとか、面白そうな本をまとめ買いして楽しむほうがずっといい。

私の夫は何度か、宝くじで数万円を当てたことがある。
しかし、そのたびに絶妙のタイミングでタイヤがパンクするとか、車をぶつけられるとかして、その賞金は修理代金に消えていった。

あるとき、なんと10万円が当たった。
賞金はそっくりそのまま、当時欲しくてしかたがなかった、マウンテンバイクの購入に充てた。
数回乗り回したところで、坂道で転倒。マウンテンバイクは無残な姿。
夫のほうも、全治3週間のケガをし、ギプスをはめることとなった。

彼の兄も、宝くじで100万円を当て、それでバイクを購入。
やはり交通事故に遭い入院した。
夫の家系は宝くじで二輪車を買うと事故に遭う家系のようだ。

夫は10万円が当たったのだから、勢いづいて高額当選に繋がるはずだと、宝くじを買い続けていたが、それからは一度も当たることはなかった。

そもそも、身近な人で高額当選した人を見たことがないので当たるとも思えない。
しかし、夫をはじめとする宝くじ愛好家たちは、購入する際には「当たるつもりで買っている」という。
当たるつもりで買わなければ意味がないのだそうだ。

当たったら、あれしてこれして、これ買って、あいつにいくら、こいつにいくらやろうか…なんてことを考えている時が至福の時なのだとか。
とにかく、買わなければそういうことを考えることもできない。
宝くじというのは、夢見る権利を買うものなのだそうだ。
 「夢見る権利ねぇ。」
と、ちょいとばかり小バカにしている私に
 「ふん、当たっても絶対にお前には何にも買ってやらん。どこへも連れて行ってやらん!」
夫はよくそう言って本気でへそを曲げていたものだった。

その夫が亡くなってもう6年。
宝くじとは無縁のまま過ごしてきたが、いったい夫は、宝くじに当たったら何をしたかったのだろうと考える意味もあり、思い切って連番で10枚だけ買ってみた。

当たったら、あれしてこれして…と考えてみたのだが、具体的に何も思いつかないことに愕然とする。
仕事をやめて遊んで暮らしたいとか言う人もいるが、私は仕事が大好きだ。
仮に大金を手にしたとしても、仕事は続けたい。

そうなると、世界一周旅行とかで長期間仕事を休むこともしたくない。
基本、出不精なので別荘もいらないし、家も今の家で充分満足している。
車の運転をしないので、車にも興味がない。
高価な宝石や毛皮やブランドのバックもほしいと思ったことがない。

今住んでいる家をちょっと修繕し、家電を買い換え、普段着を少しばかり質の良いものに買い換えたらもう充分だ。
あとは、老後の蓄えにいくらかあれば、かなりの額が残ってしまう気がする。
夢見る権利を買ったつもりが、その権利を持てあましている。

とはいうものの、当たればそりゃあ舞い上がるのではないかとも思う。

当選発表は、大晦日。
その日、私は久しぶりの舞台に立つことになっている。
煮え切らない男に業を煮やして、精神的に壊れていく女教師役であるが、もし、7億円が当たったら、にやにや笑いが止まらず、演技に集中できないと思う。

舞台の私の目が泳いでいたら、それはもしかしたら宝くじに当たったのかもしれない。
私の宝くじの当たり外れが気になる方は、12月31日16時と21時、金沢市民芸術村PIT2 ドラマ工房で行われる公演「ヤジルシ」に足をお運びくださいませ。
宝くじには当たらなくても、せめて舞台は当たってほしい。

- Profile -

東 千絵

東 千絵 (ひがし ちえ)

「プロダクション・アーニング」代表。CM・番組ナレーション、イベント出演、司会、映画・ドラマの方言指導などを手がけるかたわら、地元の演劇集団K-CATに所属。
電子書籍「そうだったのか、日本食」など、ライターとしても活躍の場を広げている。

バックナンバー

10月1日 第三十七回 「またね!」
9月1日 第三十六回 「苦手は、悪知恵で乗りきった」
8月1日 第三十五回 「命の終わらせ方」
7月1日 第三十四回 「お酒と私」
6月1日 第三十三回 「千里の道も一歩から」
5月1日 第三十二回 「女ごころの最後の悪あがき」
4月1日 第三十一回 「ドラマオーディション体験記」
3月1日 第三十回 「逃げ道が見つからないので、きんかんの甘露煮」
2月1日 第二十九回 「そのドアを開けてはいけない」
1月1日 第二十八回 「正月支度」
12月3日 第二十七回 「劇処 シャッフルステージ」
11月1日 第二十六回 「乗っかりそびれたハロウィン」
10月4日 第二十五回 「女って、生きているかぎり闘い続けるものなのよ」
9月3日 第二十四回 手塩にかけたナレーターたちのデビュー
8月1日 第二十三回 大人、大人、言いすぎじゃないの?
7月5日 第二十二回 靴が見つからない
6月8日 第二十一回 地獄の抑止力
5月3日 第二十回 最後まで笑顔
4月3日 第十九回 桜を見ずに逝った人
3月1日 第十八回 うるう年の薔薇
2月1日 第十七回 奥手な女子の初バレンタイン
1月2日 第十六回 愛しの近江町市場
12月1日 第十五回 どのツラさげて
11月1日 第十四回 結婚式の思い出
10月1日 第十三回 輝きの秘密は、言わぬが華
9月1日 第十二回 魔女と仙女と魔法使い
8月1日 第十一回 去っていった古女房
7月1日 第十回 恥ずかしかった誕生日の夜
6月1日 第九回 撮影裏ばなし
5月1日 第八回 歌うシンデレラと、歌えない仙女
4月1日 第七回 台湾、満喫、満足、満腹の旅
3月1日 第六回 熟年サラリーマンのプラトニックラブ
2月1日 第五回 報われないけど、やり甲斐のある仕事
1月1日 第四回 泣きたいときは泣いてもいいのか
12月2日 第三回 持てあました、夢見る権利
10月30日 第二回 煙草とトワレ
10月1日 第一回 ヒロインはいつもリカちゃん